岡山家庭裁判所倉敷支部 平成10年(家)493号 審判 1998年12月14日
申立人 X
相手方 Y
主文
1 相手方から申立人に対し、別紙第1物件目録の(2)記載の不動産を財産分与する。
2 相手方は申立人に対し、別紙第1物件目録の(2)記載の不動産につき、財産分与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
理由
1 申立人は主文同旨の審判の申立をした。
2 よって検討するに、本件記録及び当庁平成8年(家イ)第×××号離婚等調停事件記録並びに審問の結果によると、以下の事実が認められる。
(1) 申立人と相手方は、昭和57年1月16日婚姻し、その間に長女A(昭和57年○月○日生)、長男B(昭和58年○月○日生)及び二女C(昭和62年○月○日生)をもうけた。
(2) 申立人と相手方は、婚姻中に別紙第1物件目録記載の不動産(以下同目録の(1)及び(2)記載の不動産を「本件(1)の土地」及び「本件(2)の土地」といい、本件(1)及び(2)の土地を併せて「○○の土地」といい、同目録の(3)記載の不動産を「○○の建物」という。)及び別紙第2物件目録記載の不動産(以下「△△の土地建物」という。)を取得し、○○の土地の登記名義を相手方とし、○○の建物の登記名義を申立人とし、△△の土地建物の登記名義を申立人と相手方の共有とした。○○の建物は、○○の土地2筆の双方を敷地として建てられたものである。
(3) 申立人と相手方の夫婦関係はその後悪化し、申立人は、平成8年9月17日、岡山地方裁判所倉敷支部に対し、相手方を被告として離婚等を求める訴訟を提起した(同裁判所平成8年(タ)第××号離婚等請求事件、以下「本件訴訟事件」という。)。
(4) 本件訴訟事件において、申立人は、請求の趣旨として、相手方との離婚及び前記子らの親権者をいずれも申立人と指定すること並びに本件(1)の土地を財産分与として申立人に分与し、その所有権移転登記をすることを求めた。ところで、本件訴訟事件における財産分与に関する申立人の真の要望は、自己の所有名義となっている○○の建物の敷地である○○の土地の全部を財産分与として取得したいとするものであり、前記のとおり、○○の土地は本件(1)の土地だけでなく本件(2)の土地を併せたものであったのであるから、上記請求の趣旨としては、本件(1)の土地に加えて本件(2)の土地の分与の申立をも記載すべきであったのであるが、本件訴訟事件における申立人の訴訟代理人の調査不足によって、同訴訟代理人及び同人から説明を受けた申立人において、○○の土地は本件(1)の土地のみであると誤信した結果、上記のとおり実は○○の土地の一部である本件(2)の土地についての財産分与の申立が為されなかったものである。また同事件において、相手方は、離婚の請求を争ったが、やむを得ず離婚になる場合は、△△の土地建物を相手方が取得することを希望する旨陳述した。
(5) 本件訴訟事件は岡山家庭裁判所倉敷支部の家事調停に付され(同裁判所平成8年(家イ)第×××号離婚等調停事件)、平成8年12月5日、調停が成立した(以下「本件調停」という。)。本件調停の調停条項は、要旨、<1>申立人と相手方は離婚すること、<2>前記子らの親権者をいずれも申立人とすること、<3>財産分与として、申立人は相手方に対し、△△の土地建物の申立人の共有持分を譲渡してその旨の所有権移転登記手続をし、相手方は申立人に対し、本件(1)の土地を譲渡してその旨の所有権移転登記手続をすること、<4>相手方は△△の土地建物に付された抵当権の被担保債権(債権者住宅金融公庫)の支払につき責任を負い、申立人は本件(1)の土地に付された抵当権の被担保債権(債権者甲銀行)の支払につき責任を負うこと、<5>申立人は相手方に解決金として金70万円を支払うこと、<6>申立人は相手方に、電話加入権証書、電話機及び石油ストーブ等の家具類を引渡すこと、<7>当事者双方は離婚に関し、今後名義の如何を問わず互いに請求をしない旨の清算条項からなっている。なお債権者甲銀行の上記抵当権は、○○の土地建物の2筆1棟に付された共同抵当である。
(6) 本件調停における上記財産分与は、当事者双方の希望に従い、○○の建物及びその敷地の全部を申立人に帰属させ、△△の土地建物を相手方に帰属させるとの基本方針のもとになされたものであるが、前記のとおり申立人の訴訟代理人及び申立人において、○○の土地は本件(1)の土地のみであると誤信していたこと及び本件訴訟事件の請求の趣旨に本件(2)の土地が記載されていなかったことから、調停委員会及び相手方の訴訟代理人においても同様の誤信をした結果、本来本件(2)の土地についても、離婚後これを申立人と相手方のいずれに帰属させるかについての調停をし、上記方針に従えばこれを申立人に分与する旨の調停条項を作成しなければならなかった(不動産の財産分与に関する前記当事者双方の希望からすれば、調停委員会の勧試により、その旨の調停が成立した可能性が高かったと推認される。)のに、これが脱落したものである(なお相手方は、本件の審問において、相手方自身は○○の土地は本件(1)及び(2)の土地からなっていることを承知しており、本件調停において本件(1)の土地のみが申立人に分与され、本件(2)の土地は相手方の所有として残されたものと理解していた旨述べるが、仮にそうであったとしても、相手方は本件調停においてその認識を調停委員会や相手方の訴訟代理人にも伝えていなかったものであり、また本件(2)の土地を含む○○の土地建物に付された抵当権の被担保債権の支払責任を全て申立人が負うこととされたことにも照らすと、少なくとも相手方自身を除くその余の当事者、訴訟代理人及び調停委員会の関係者はすべて上記誤信に陥っていたことが明らかである。)。
3 右認定事実によれば、なるほど本件調停条項の財産分与に関する記載としては、本件(1)の土地のみが申立人に分与され、本件(2)の土地には触れるところがなく、かつそれ以上の財産分与等についてはこれを請求しない旨の清算条項が付されているが、少なくとも相手方自身を除く当事者及び代理人並びに調停委員会等の調停関係者間の共通認識としては、○○の土地は本件(1)の土地のみからなるものと考えられており、本件調停条項は、それによって○○の建物及びその敷地の全部を申立人に分与するものとして理解されていたと認めるのが相当である。したがって本件調停条項における前記清算条項は、その形式上の文言にかかわらず、実質的には本件(2)の土地を含む○○の土地が申立人に分与されることを前提にして、その余の請求を相互にしない旨を合意したものであり、本件(2)の土地をその登記名義のとおりに相手方に帰属させることを前提として、申立人がその余の財産分与等の請求をしない旨を確認したものではないと解するのが当事者の合理的意思解釈に適うと言うべきである。
4 そうすると、本件(2)の土地については、本件調停条項で定められた前記清算条項にかかわらず、申立人において改めてその財産分与の申立をすることができるものと解するのが相当である。そして、前記認定事実によれば、本件(2)の土地を財産分与として申立人に分与し、それに伴って、相手方に対し、本件(2)の土地の所有権移転登記を命ずるのが相当である。
よって主文のとおり審判する。
(家事審判官 太田善康)
(別紙)
第1物件目録
(1) 所在 岡山県小田郡<以下省略>
番地 <省略>
地目 宅地
地積 372.50平方メートル
(2) 所在 岡山県小田郡<以下省略>
番地 <省略>
地目 宅地
地積 173.44平方メートル
(3) 所在 岡山県小田郡<以下省略>
家屋番号 <省略>
種類 共同住宅
構造 木造セメント瓦葺2階建
床面積 1階 144.91平方メートル
2階 144.91平方メートル
第2物件目録<省略>